これまで教師として20回以上、児童たちと一緒に修学旅行に参加してきた
毎回のように感じるのは、当日の朝、「全員が無事に集まることができるだろうか」という不安だ
特に集合時間が早朝であることが多いので、子どもたちが全員元気な姿で揃うかどうかは、
私にとっても心配の種だった
修学旅行は、子どもたちにとっても小学校生活最大のイベントの一つだが
そのため、事前に目的地について学び、旅行に臨むための知識を共有することはもちろん、
子どもたちにはそれぞれ役割を決め、班のリーダーを中心に自分たちで行動できるよう、
日頃から主体性を育てる準備を念入りに進めていく
リーダーが積極的に活動を引っ張り、班内で協力し合う経験を通して、
彼らは大切な思い出を築くだけでなく、集団生活の中で成長していく
また、6年間の中で修学旅行が持つ意味合いは特別で、
多くの児童にとって一生の思い出に残る一大イベントであり、大切な行事だ
もし万が一、「修学旅行に参加できなかったら」と思うと、
その子にとってどれほどの心残りになるのかは計り知れない
そんな一生に一度の体験を、全員で楽しく安全に過ごせるよう、
教師としての役目を全うしたいと思っていた
実際、卒業文集などを見ても、修学旅行の思い出を書き残す子が非常に多く、
その経験がいかに心に残っているかが伺える
修学旅行当日の朝、出発前には、子どもたちの名札を私の机に並べ、
登校してきた子どもたちがそれぞれ自分の名札をつけるという流れで出席確認をする
そして一人ひとりがしっかりと名札をつけているのを確認したうえで、いよいよ出発となる
大きな行事であるため、バスの出発も朝早いことが多いのですが、全員が元気で登校してくれるか、
まずここが一番気がかりだ
これまで私の経験では、幸運にも修学旅行を欠席する子どもは少なかったのだが、
それでも当日まで緊張が解けることはない
そんなある年、修学旅行当日の朝、予定通り出発しようと準備を進めていたその時、
突然保護者から一本の電話が入った
「娘が修学旅行に行きたくないと言っています」という内容だった
その子は6年生の女子で、普段からおとなしく控えめな子である
集合時間は早朝の6時で、出発は7時というタイトなスケジュールだ
時間の猶予がないため、私は急いで彼女の家に向かった
家に到着すると、母親は困り果てた様子で、子どもはまだパジャマ姿のまま座り込んでいた
修学旅行への参加を断念するか、それともどうにか説得して連れて行くか、
判断を迫られた
時間的にも説得する余裕はなく、
まずは持ち物を急いでまとめ、私の車に積み込んで出発の準備を整えた
しかし、子どもがまだ気持ちの整理がついていない様子で、
このまま連れて行くには少し不安も残る
普段から寡黙で控えめな性格で、
周りに自分の気持ちを表に出すことが少ないタイプの子だった
また、修学旅行が行われる5月は学年が始まって2ヶ月足らずの時期でもあり
私自身もまだ子どものことを十分に理解しているわけではなく、
どのように接すれば良いのか迷いもあった
しかし、修学旅行は学年や学級全体が協力して行う一大イベントである
子どもたちにとっても特別な機会であり、ぜひこの体験をしてほしいという思いから、
私は一か八かの言葉をかけることにした
私は彼女に向かって、「今すぐ着替えないと、そのままの姿でバスに乗せるよ」と伝えた
少々強引な言い方でしたが、何とか参加してもらいたい一心の思いだった
私の言葉に、子どもがどう反応するか一瞬不安にもなったが、
その言葉が伝わったのか、彼女は黙って私の指示に従い、
すぐに着替えを済ませた
そのまま私の車に乗り込み、
無事に集合場所まで送り届けることができたのだ
修学旅行はその後、何の問題もなく進み、子どもたちは楽しい時間を満喫した
帰校後も学年全員が旅行の思い出に浸り、笑顔で話し合っている姿を見ると、
教師としても安堵の気持ちが込み上げてきた
そして、6年生の一年も無事に終わり、彼女も無事に卒業し、中学生となった
この修学旅行にまつわるエピソードは、私にとっても忘れられない貴重な思い出として心に残っている
子どもたちにとっての特別な行事を、全力で支え、無事に思い出をつくることができたことは、
私にとっても教師としてのやりがいであり、
子どもたちと過ごす日々のかけがえのない一瞬を改めて感じさせてくれた出来事だ