S校に赴任した経験:学校が崩壊していた
2024.11.03
S小学校に赴任することになったとき、私はこれまでに経験してきた環境とは
大きく異なる新しい校風に出会うことになった
前職のY小学校では、地域でも最大規模の児童数を誇る学校で、
賑やかな環境の中にも秩序が保たれていて、
私も多くの保護者や子どもたちと信頼関係を築いていた
そのため異動には少し寂しさも感じつつ、新しい出会いや挑戦を楽しみにして、
S小学校での勤務に期待を寄せていた
S小学校については、「学校が荒れている」という噂が徐々に耳に入ってきていた
落ち着いた環境が整っていないらしく、
子どもたちが教室で過ごす姿もなんだか騒々しいというのだ
しかし、S小学校は規模も小さく、人数も少ないため、
なぜそんな状況になっているのか、
私にはなかなかイメージが湧かなかった
いよいよ赴任の日、4月8日の始業式および入学式が行われた
私は校舎に足を踏み入れると、さっそくその活気のある賑やかさに圧倒されることになった
新任教師としてのあいさつの場面で、私を含め数名の新しい教師が前に立ち、
ひとりずつあいさつを述べるのだが、子どもたちは楽しげにおしゃべりを続け、
まったく話を聞いている様子がない
その光景に、最初の感想は「すごい」のひと言だけだった
これからどのように子どもたちと向き合っていくべきか、
不安と期待が入り混じった気持ちで一日が始まった
私は6年生の担任を任されることになり、さっそく学級の子どもたちと接する中で、
そのクラスの独特な雰囲気を少しずつ感じ取るようになった
そんなある日、印象的な出来事があった
学級の女子たちが職員室にやってきて、A君について苦情を伝えてきた
私は「わかったから、A君に職員室へ来るように言って」と伝えたが、
女子たちは「言っても来ないと思います」とのことだった
そこで、私は運動場にいるA君を訪ねて声をかけてみ
すると、A君はブランコに乗ったまま笑っていて、
私が何度声をかけても一向に来る気配はない
A君が昨年までどのように過ごしてきたのか、
またこれまでの先生方がどのように指導してきたのかもわからないままだったが、
A君のこの行動がS小学校の雰囲気を象徴しているように感じられた
さらに、学校内で特に強い影響力を持っているのが、
少年野球に熱中する子どもたちであることに気づうた
彼らは非常に活発で、運動場や体育館を中心に、
彼らの存在が学校全体の雰囲気にも色濃く表れている
少年野球に取り組む子どもたちが、ある意味でこの学校の“顔”であり、
中心的な役割を果たしているようだった
そこで私が考えたのは、彼らの影響力を良い方向に活かし、
学校全体がさらに活気を帯び、そして秩序を取り戻すことができるような仕組みを作り上げることだ
教師が一方的に指導するだけでは、かえって子どもたちが反発する可能性もあり、
まずは彼ら自身が自らの力を発揮できるように、
主体的な行動を促すことが大切だと思った
4月の終わり頃、私は少年野球に参加している3年生から6年生の子どもたちを家庭科室に集め、
「君たちはこの学校の主役であり、よい学校づくりに欠かせない存在なんだ!」
と力強く語った
子どもたちは真剣な表情で私の言葉を受け止め、
前向きに取り組んでくれるようになった
その日から、彼らの学校生活への姿勢が少しずつ変わっていくのを感じた
子どもたちの意識が変わり始めると、
やがて児童会活動にも積極的に参加するようになり、
皆で意見を出し合い、活発な話し合いの場が増えていった
それまで自分の意見を表に出さなかったおとなしい子たちも、
徐々に話し合いに参加し、仲間との協力を通して自信を身につけていった
彼らのその自信がさらに周囲に良い影響を及ぼし、
まるで雪だるまが転がって大きくなっていくように、
学校全体の雰囲気が良くなっていった
6年生の教室も、次第に和やかな雰囲気に包まれ、
勉強にも熱心に取り組み、行事もみんなで協力して楽しむようになった
おとなしい性格の子どもたちも、自分の個性を大切にしながら、
集団の中で輝ける場を見つけ、笑顔で過ごしてくれるようになった
その様子を見ていると、彼らの成長を目の当たりにして感動し、
何よりも教師冥利に尽きる思いだ
彼らが私に見せてくれた笑顔や活き活きとした姿は、
今でも鮮明に目に浮かぶ
この経験を通して、私は子どもたちの持つ力の素晴らしさを改めて実感し、
彼らを信じることの大切さを学ぶことになった
子どもたちが自主的に学校生活を築き上げることで、
私たち教員が与える指導以上に、彼らは深い成長を遂げていくのだと確信する
そして、これからも子どもたちが自らの力を発揮し、
自信を持って歩んでいけるよう支えていきたいと、
心から思っている