場面緘黙の彼女
2024.11.12
その6年生の彼女は、普段ほとんど話すことがなく、
特に給食の時間には食事を取ろうともしなかった
それは、これまでの学年でも同じような状況が続いていた
子どもたち同士の関係では、彼女は笑顔を見せて楽しそうに会話をしており、
給食も食べていた
しかし、大人がいる場面になると一変し、
言葉を発さず、食事も取らなくなった
この様子から、場面緘黙(ばめんかんもく)症ではないかと考えることもあった
場面緘黙症は、不安や緊張が原因で、
特定の環境や状況において話せなくなる症状を指す
発達障害者支援法の対象ともされており、
不安症の一種と見なされることも多い
幼少期に発症しやすく、適切な支援や治療によって、
成長に伴い自然と改善する場合もありますが、
周囲の理解がないと問題が長引くこともある
ある日、4月に行われた家庭訪問の日、
学校へ向かう途中で偶然自転車に乗った彼女と出会った
その時の彼女は、いつもの学校とは違う一面を見せ、
にこやかに挨拶をしてくれた
このような笑顔でのコミュニケーションは、
学校での彼女からは想像がつかないものだった
家庭での彼女の様子についても、訪問先のお母さんはにこにこと話してくれ、
普通の家庭で育った子どもであることがわかる
このことからも、彼女の様子が特に学校という場所に限ったものだ
という印象が強くなった
結局のところ、1年間彼女の態度は変わらなかった
ですが、子ども同士の間ではまったく問題なく接することができ、
また、大人がいない場面では給食もきちんと食べていた
そのため、私は給食の時間にはできるだけ早く教室を後にし、
彼女が少しでもリラックスして食事を取れるよう心掛けた
場面緘黙症は、家庭や友達のいるリラックスした環境では普通に話せるものの、
学校などの特定の環境や大人がいる場所では、
極度の緊張や不安から話すことができなくなる症状である
一般的に幼児期に発症することが多く、
適切なサポートがなされれば成長と共に自然に緩和されていくとされている
彼女の場合も、場面緘黙症の典型的な症状を示しているように見えたが、
正式な診断が下っていたわけではなかった
また、保護者の方も特に問題視していない様子だった
そのため、私は特別な対応を取ることはなく、
静かに見守ることに徹した
振り返ってみると、彼女のような子どもはとても印象的である
学校という場面でのみ見せる特有の振る舞いと、
自分の置かれた状況に対する微妙な反応
それはただの「内向的」や「人見知り」とは異なり、
彼女の中で大人がいる環境で感じるプレッシャーや不安が反映されたものである
彼女のように、学校で特定の状況にのみ不安を感じる子どもたちは少なからず存在し、
その気持ちに寄り添いながら見守ることが必要だと感じる
彼女との1年間を通じて、場面緘黙症の理解が深まり、
さらに他の子どもたちにもそれぞれの内面的な課題があることを実感した
今後も、こうした子どもたちの気持ちに寄り添いながら、
教育者としての役割を果たしていきたいと強く感じた
このエピソードは、特定の場面で話すことができなくなる
「場面緘黙症(Selective Mutism)」の特徴と対応の難しさについて示唆しています
場面緘黙症は、主に幼少期に発症し、家庭や親しい友人の前では話せるものの、
学校などの緊張が高まる場面や、特に大人が関わる場面で会話ができなくなる症状が特徴です
この症例では、6年生の彼女が子ども同士の関係では問題なく会話できる一方で、
大人がいると話せなくなり、給食も摂らないという状況が見られます
1.場面緘黙症の背景とメカニズム
場面緘黙症は、不安症の一種とされており、特に強い社交不安が関わっています
自分がどう思われているか、他人の評価への不安が原因となり、
無意識のうちに「声を出すこと」が困難になってしまうのです
これは「口を閉ざす」意志的な行為ではなく、
特定の場面で生じる精神的なブロックとされています
2.学校での影響
学校という環境は、対人関係のルールや集団での行動が求められるため、
場面緘黙の症状が現れやすい場です
このエピソードに登場する彼女の場合も、
学校での生活の中で特に大人がいる場面で給食を食べられず、
会話を避ける様子が見られます
彼女が家庭訪問の途中で教師に笑顔で話しかけたことからも、
安心できる環境では話すことができ、
学校のような緊張が高まる場面でのみ話せなくなることが確認できます
3.対応の方法
この教師は、彼女が少しでもリラックスできるように、
給食の時間にはなるべく教室から早く退出することで
プレッシャーを和らげようと努めています
このような対応は、場面緘黙症におけるサポート方法の一つとされています
過剰に注目せずに安心できる空間を作り出し、
少しずつ緊張感のある場面でも安心を感じられるようにするのが効果的です
4.場面緘黙症への理解と支援
場面緘黙症は、発達障害者支援法の対象とされており、
適切な治療やサポートによって改善するケースが多く見られます
しかし、この彼女のように診断が下りておらず、
保護者も特に問題視していない場合、
学校側がどの程度関与すべきかは難しいところです
教師や学校が協力し、専門家や保護者と連携しながらサポートしていくことで、
彼女のような子どもが安心して過ごせる環境作りが可能になります
このように、場面緘黙症の子どもに対しては、
無理に話させたり過度な注意を払うのではなく、
自然にサポートする姿勢が大切です